協賛企業・団体のご紹介
毎日新聞社


毎日新聞創刊130年記念事業「富士山再生キャンペーン」

 毎日新聞社は、2002年2月21日、わが国最古の新聞として創刊130年を迎えます。これを記念して新ミレニアムの幕明けとなる2000年初頭から「富士山再生キャンペーン」を展開します。
 古くから書画や歌の題材としても親しまれてきた日本のシンボル・富士山。しかし、いまや足を踏み入れると観光客らが残したごみなどが目立ち、環境破壊を象徴する山に様変わりしています。
 多数の市民団体が浄化作戦に取り組んでいます。その中で、ネットワーク作りを目指す「富士山クラブ」は、1999年11月、経済企画庁から初の特定非営利活動法人(NPO)に認定されました。美しい富士山の自然、森の回復、さらに環境保全に向けて学会までつくろうというバイタリティーあふれる組織です。
 キャンペーンは、富士山クラブに全面協力して進めています。
 美しい富士山をよみがえらせることは、各地が抱える環境問題に良い影響を与えるのはもちろん、現代人が見失った誇るべき日本の心や文化の再生にもつながると思います。


1999年12月16日付「毎日新聞」朝刊より

日本一の山再生へ 「富士山クラブ」の試み
 富士山を救え――。環境NPO(特定非営利活動法人)「富士山クラブ」を毎日新聞社が支援して日本一の山の再生に取り組むことになった。空き缶を投げ捨てる観光客、山小屋のトイレ問題など、20年以上前から環境悪化が懸念され、地元の団体などが復元に取り組んできた。「日本人の心のふるさと・富士山を世界遺産に」の運動が一時起こり、国会請願も採択された。しかし、視察に訪れたユネスコの委員があまりの汚染にため息をつき、実現には至らなかった。富士山の現況は全国各地の「縮図」といえないか。富士山クラブの活動は、各地で環境保全運動に取り組む団体や人々と連動、刺激しあいながら“リバース(再生)日本”の希望へと換える試みでもある。
【野崎勲、西村浩一】


精進湖登山道のわきの沢に捨てられたごみと中川さん
環境庁の自然公園指導員で、「富士山クラブ」のメンバーでもある山梨県富士吉田市の写真家、中川雄三さん(42)は富士山の「汚れ」、「破壊」を撮り続けている。「みんな撮りたがらないが、本当の姿を残しておかなければ」という中川さんと一緒に富士山に入った。
 12月上旬の山梨県上九一色(かみくいしき)村。登山道わきの沢には冷蔵庫、ガスレンジ、空き缶、マットレス、古着などが枯れ葉の下にうず高く積み重なっていた。ねじ曲がりさびた地元建設業者の看板、市立中学校のネームが入った体操着まで。
 「夜店で売れ残ったらしいヒヨコが100羽近く捨てられていたこともあります。これがネコやイヌだと、生態系を乱すことにもなる」と中川さん。5メートルほど先には、古タイヤやコンクリート塊が散乱していた。「樹海の道路沿いにこんな所が何カ所もある。通報があると保健所が回収しますが、追いつかない」と肩をすくめた。
 静岡県側でも、たった1日のパトロールで、不法投棄された産業廃棄物が15トン以上も見つかるという。
 航空機から撮影された夏の富士山の写真。頂上付近に白い一筋の線が見える。元環境庁長官、岩垂喜寿男さんが言う。「残雪かと思ったら、これがトイレからあふれ出たティッシュだと聞き、がく然とした」。別名「白い川」。事実上、たれ流しになっている富士山の山小屋などでのし尿処理が大きな問題になっている。
 静岡県や関係市町村、団体などで構成する「富士山トイレ研究会」は、トイレ利用者に100円程度の協力金を支払ってもらうチップ制を試みている。2カ所の公衆トイレでチップ協力を訴えたが、金を払ったのは、利用者の2割に満たなかった
 「登るのは登山愛好家ではなく観光客がほとんど。自然愛護の精神に欠ける」。トイレ研究会が最近まとめた中間報告書の指摘だ。


富士スバルライン5合目付近から特別自然保護地区に入るマウンテンバイク=中川雄三さん撮影
 樹海。湖面から五合目まで延びる精進湖登山道の両側180メートルは、自然公園法で定められた特別自然保護地区になっている。
5合目から山腹を下るマウンテンバイク(MTB)が、ここ数年増えている。「MTBは自然にやさしいと思われがちだが、それはオフロードバイクや四輪駆動車と比べてのこと。輪だちを刻み、やがて小さな沢になって林を破壊する」と中川さん。
 夏には堂々と四輪駆動車で入り込むキャンパーまでいる。たき火の跡が点在。その横では、アカマツの幹がえぐれていた。「マキとして使おうと思ったのか、ワイヤーを巻きつけてウインチで引っ張った跡です。中にはチェーンソーで切ってしまう者までいます」
 環境庁は1991年、幹線道路などを除き、富士山周辺約7500ヘクタールを車両等乗り入れ規制地域に指定した。規制違反の場合、6月以下の懲役または30万円以下の罰金。だが、これまで検挙されたのは静岡県側で1件。山梨県の車両等乗り入れ防止対策連絡協議会は年4回パトロールしているが、エリアが広すぎて今年は1台を指導しただけだ。
 山梨県景観自然保護課で同協議会担当の千野徹也さん(39)によると、一部地区では、レース気分で丘を登る四輪駆動車があとを絶たず「地肌が出て、植物が生きられる状態ではない」という。
 山中湖では「野生のオオハクチョウが見られなくなった」と中川さん。釣り針、ごみを飲み込んで被害を受けたためだと言う。
 年間約700万人が訪れる河口湖では、地元町村や観光協会、漁協など16の団体がごみの会議を組織した。ボランティアや漁協によるごみ集めでは、追いつかなくなった。清掃業者を雇い、オフシーズンでも週1回、夏には週に数回、湖畔などに捨てられた釣り糸や空き缶などを集める。ほとんどが数年前のブラックバス放流以降、急増した釣り客が残していくのだという。
 事務局の外川建志さん(49)は「山中湖村では業者委託で村道などの清掃をしていますが、団体が集まり放置ごみを収集するのは河口湖が初めて。ただ年間予算が300万円弱しかなく、活動費としてはギリギリ」と話す。
昨年11月、静岡県と山梨県が富士山保全を訴える「富士山憲章」を制定した。静岡県では96年に富士山総合環境保全指針を設けた。山梨県では来年度「富士山総合保全」を初めて予算化するが、事業内容は検討中で、病める富士山の“治療法”はまだ模索段階だ。
 富士山登山者は年間30万人、ふもとまで含めると3000万人が訪れる。そして地元に住む人たち。「私一人ぐらい」の気持ちでごみが捨てられたとしたらー。「(ごみ箱の全廃など)尾瀬でできた環境保全が、ここでできないはずはない」雲から頭をのぞかせた富士山を見上げ、中川さんがそうつぶやいた。
【野崎勲】

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