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━━こちらのホテルのホームページを開きますと、「東海客舎『菱屋旅館』120年の歴史に学びつつ」とあります。かなり古い歴史をお持ちのここと思いますが、その生い立ちからお話しいただけますか。
室伏 私どものホテルの創業は明治22年(1889年)まで遡ります。この年は奇しくも東海道線が全線開通した年でもあります。と言っても丹那トンネルの開業はまだ先で、この時は今の御殿場線で国府津から沼津へ抜けるルートです。
しかしこれは箱根を越えて、三島にいたるという宿場町の終焉に止めを刺したことを意味します。三島には江戸時代の最盛期は約150軒の旅籠があったらしいんですね。
それが明治22年には5軒程度になってしまったのです。そのとき私の4代前の室伏清五郎が、東海道三島宿の脇本陣跡を譲り受け旅館をはじめました。
━━旅館としての伝統をふまえながら、ホテルにされたのはいつですか。
━━「プラザ」という名前にこだわりがおありだとか...。
室伏 あります。料理旅館はどちらかというと「一見さんお断り」といった雰囲気ですが、「プラザ=広場」というイメージはその逆でしょ。
開放的で、どなたも好きなようにお出かけ下さいという感じです。
それまでも市民の方々の描かれた絵は、公共の施設で展示されていましたが、 「ちょっと非日常的はステージ」を提供しようと、ホテル内にギャラリーを作りました。 また、三島ではクラシックの音楽会がよく開かれていますが、これが1000人も入る大きなホールで、入場者がまばらなんてこともあります。 それならホテルのパーティールームを、100人なら100人なりに、200人なら200人なりに、客席を素敵にレイアウトできるのではないかと思ったんですね。 パーティーの華やかさがあるなかでコンサートができるような空間を作りました。どちらも、人が集う「プラザ」でありたいと考え、絵画と音楽、 それもプロであるかないかではなく、精進する人たちのためのステージを作りました。コンサートの売上げは寄付をします。 ━━ところで、三島といえば、富士山の伏流水が湧く「水の街」で、「街中がせせらぎ」事業なども盛んに行われていますが。
景観は自然と人間の共生によって保たれる。自然に合わせて景観をデザインする。
━━その富士山への思いをお聞かせいただけますか。 室伏 私は外国から友達が来ると、必ず富士山の五合目のあたりへ案内します。しかし所々恥ずかしいと思うところがあるんですね。外国の方は「富士山はきれいだ」と思って来ているので、実際に見て「何故、こんなに汚したの」と驚くとともに、ため息をつきます。それは私にとってとても辛いことです。先ほどの三島の水が汚れていることは自尊心を失うことと同じだとお話ししましたが、富士山が汚れていることも、私たちの自尊心を失うことです。 私たちは、三島の水と同じで、富士山に育まれたという思いが強いですね。子どものころ祖父と弟たちと、一合目から自分の足で富士山に登りました。富士山の植物などを調べるために図鑑などを片手にね。でもそのときは全然汚れていませんでした。 ━━その富士山が、最近、世界遺産への登録など、なにかと話題になることが多いのですが、富士山の現状をどのようにお考えですか。 室伏 今二つの意見があると思います。富士山を観光化し、大勢の人が来るなかで環境を整えようと考える人と、逆に入るから汚れる、 だから入山を規制すると主張する人がいると思います。私は観光には「目で見るもの」と「やすらぐ」ものがあると思います。 その意味で富士山は山の中に入ると、それほどあれこれと見るものがあるわけではない。しかし遠くから見て神秘的な富士山に、 今近づいているんだ、そしてだんだんとその懐に入っているんだと思うことが、安らぎを感じさせるのではないでしょうか。 そのとき、周りで目にとびこむものが、汚れていたり、俗っぽいものがあると、「やすらぎ」を感じることが出来ない。 やはり「見る観光」「感じる観光」という意味からも、ゴミは論外ですが、景観を俗っぽくしないことが大事だと思います。 看板の色を規制し、建物はある程度樹木で囲うなど。富士の掌の中に入るときは、俗っぽいものがあっては駄目なんですよね。 観光はいいのだけれど、目に見えるものを富士山の自然に合わせ、景観をデザインすることが大切です。
━━では、これから三島の水、そして富士山の環境を良くするために、どんなことをお考えですか。
室伏 私のライフワークとして、三島の水、さらにはそれを取り巻く富士山に代表される自然に、自分がこれからどう関われるのか、と考えています。
もちろんチャリティーコンサートやギャラリーは続けていきますが、そうしたホテル内だけのものから、もう少し、水とか自然とか富士山などに、
これからどんな気持ちで関わっていこうかと、これが自分自身の課題なのです。 ━━最後に富士山クラブに一言いただけますか。
室伏 富士山の環境を考える団体は、富士山クラブのほかに、まだまだたくさんあります。富士山には色々な登山道があって、
いろんな人々が様々なルートを使い頂上をめざすように、それぞれの方法で富士山の環境を良くしようと活動しています。
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